アサマde ブログ - 巨星「葛飾北斎」は語るまでも無いが、彼を育てた北信濃、小布施町を語りたい
第二回パリ万博(1867年)を契機に北斎の版画という手法を用いた作品は、美術の量産として世界の美術産業に大きな進化を与えている、更に富嶽三十六景に代表される繊細な色彩と遠近法はセザンヌ、モネ、ゴッホ等のその後の作品に反映されている。一つの物体を多方面から描くピカソも北斎から色彩を学んだのでは、との論評がつい最近の日経新聞で取り上げられている。世界の北斎は私が語るまでも無い巨星だが、ここでは彼を育てた小布施町に触れてみたい。
江戸文化を尊び
人口を増やさず減らさず「田園都市」で潤う文化の里
50年ぶりに北信濃の小布施町を訪ねた感動したのは半世紀を経た今でも小江戸の町並みは変わらず、私が見る限り鉄とコンクリートのビルは建っていない。住宅も甘いコマーシャルソングに誘われ、建てた大量生産の軽々しい住宅は無く、本格的木造建築と京壁が長い庇(ひさし)で建物を守っている。
小路を行き交う観光客は古建築を背景にロマンある旅人の絵になっていた。約200年の時を経て今だに、江戸の原風景をそのまま残して郷愁が見える町並みである。
50年前訪れた時、小布施の未来への方針は人口を増やさない、減らさないとのモットーを聞いたが、今も当時と変わらない人口1万人前後で推移している。現在の日本の行政の多くは人口を増やす事が優れた行政としながら町中は空家だらけ、農地は歯止めのかからない住宅建築で失われ、耕作放棄地は全国で滋賀県とほば同じ50万haを越し、コミニティを失った寒々とした風景になっている。この町には小布施堂、竹風堂、桜井甘精堂との商号で日本の栗菓子を寡占する三大メーカーがある。農家は栗を生産すれば買主は決まっているから安定した村の産業が成り立つ、その他リンゴ、良質な果実を生産しバランスある産業となり、豊かで安定した暮らしが営まれている。更に年間100万人の観光客を国内外から集めている(人口1人当たり100人の観光客)いわば絵に描いた如く潤いのある田園都市を形成している。この町に構造的な貧困家庭は存在しない。葛飾北斎はこの地を心の棲家とし、83~88歳までの晩年、集大成の時間をこの町を拠点として活動している。
北斎83歳の時、江戸から230キロの道を歩き小布施の豪農商高井鴻山を訪れ、鴻山のパトロンの申し入れを快く受け入れ、生活の保障を得て、江戸との交流を活発にしている。高井鴻山自身文人画家でもあったが、北斎とは親子ほど若く、米を中心とした豪商で藩の財政を支えていた。そのため江戸幕府にも顔が効いていた事から、北斎が小布施に移住する以前から後ろ盾となり、美人画ばかりを描いていた北斎に十分な画材を与え、富嶽三十六景を始め次々と大作を発表させている。富嶽三十六景の中の代表作「神奈川沖浪裏」の仕上げも天保の改革などで治安が
不安定になった江戸を離れ、人情の厚い平和な町小布施で仕上げたのではと私は推測している。この時代人生50年が通常だったが、北斎は明治維新の19年前「富士越龍」を描き90歳で没している。「年を取る事は老化する事ではなく、進化する事である」との名言があるが、北斎は正にそのお手本として小布施からエネルギーを吸収し、長寿を重ねた偉人であった。小布施の近くで産まれた小林一茶の句「やせ蛙負けるな一茶ここにあり」と詠んだ池のある事でも知られている、小布施の岩松院に残された天井画は、遥か200年の時を経て、絵の具が今にも滴るが如くの迫力に満ちている。北信五岳(飯綱、戸隠、斑尾、黒姫、妙高山)が見下ろし、悠然と流れ万葉集でも詠われている信濃川と、広大な空間に吹く風と重厚な寺院、家並、蔵、路地、風習を頑なに大切に守り、いわば博物館の如くの町で人々は生活を続けている。花を愛し、造園を好み、オープンガーデンをしている家は、130軒に上る。転居すること93回、改号30回と波乱万丈だった北斎が選んだ心の町小布施は、資本主義経済(マネー経済)が行き詰まりを見せる中、地産地消の素朴で頑丈な生産経済の強さを永く実践している揺るぎの無いまほろばの国である。
先のエッセイでは、下諏訪の「万治の石仏」と岡本太郎のパワーを書いたが、葛飾北斎も又北信濃の大自然の風と、小布施の人々の人情を絵筆に集中させ、大胆かつ繊細な色で創形化し、世界の美術界をリードした巨匠であろう。
2018年6月20日
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